悲しい親子関係
中学生の頃、年上のいとこ宅で読み衝撃を受けた本作品。
いくつの時だったか忘れたが大人になってから再度読みたくなり、白泉社のコミック文庫を全巻購入し読み、再び衝撃を受けた。
そしてこの度10年くらい経っただろうか、再び読んでみようと思い立ち、本日読み終えたところである。
中学生の時読んだ時はおそらく理解できてなくて、サラッと読み進めた部分もあったであろう。
2度目に読んだ時は、本編はそういったことはなく読み終えて深い余韻を残したが、本編のその後を描いた
「馬屋古女王」
は、何しろ現代の結婚事情と違い半分血の繋がった異母兄弟や異父兄弟で結婚する時代、本編から続いての登場人物の血縁関係がワケがわからなくなり(^_^;)読むのに時間がかかった。
「これは刀自古の子供‥」「これは厩戸の実の子供‥」「これは推古女帝の孫ということは大姫の子‥?やっと厩戸王子と結ばれたのか?いや、違うな」
などと、しっかり内容を把握しながら読み進めたかったのでいちいち頭の中で確認しながら読んだため、時間がかかった。
だがそれはとても楽しい作業でもあった。
読み終えて一番思うのは、あくまで私の感想だが
「間人媛がひどい」ということ。
この人が、息子の厩戸が超人であったとしても、その驚きと恐怖を上回る愛情を持つことができ母として厩戸に接していたなら、多くのことが違っていただろう。
実の息子をまるで汚いものか幽霊でも見るように避け、「普通」である下の子供達には愛情を注いでいる。
私がもし彼女と同じ立場だったらどうしただろう。
同じように超常現象を起こす力を持つ我が息子を、恐怖の目でしか見れないだろうか?
間人媛の立場にもなろうと思って考えてみるが、やはりそうは思わない。
大変な苦悩は生まれるだろうが、自分が生んだ子供、何者かとすりかわった訳でもなし、子供自身に苦悩は無いだろうか?と心配になると思う。
厩戸がもう少し小さい頃、母の好きな花を見つけ母に見せてあげようとするが、弟の来目が転んでつぶしてしまうシーン。母への優しい厩戸の思いが伝わらない、切ない場面だ。
他にも、厩戸のことは蚊帳の外で家族団らんが繰り広げられる数々のシーン。
ここで恐ろしいのは、間人媛が何か厩戸に冷たい態度を取るでもなく、冷たい事を言うでもなく、「さりげない無視」をしていることにより、彼女の非道さが表沙汰にならない事である。
しかもあの優しげな風貌がそれに拍車をかけている。
ひどい態度を取るなら別の誰かがたしなめる事ができたであろうが、そうでなくこの愛情を注がないという虐待にも近い行いが、水面下で行われている事、しかもそれが彼女自身すら「息子への恐怖」が先立ち気付いていない事が、厩戸を救いようの無い孤独に追いやっている。
読んでいて度々切なくなり、間人媛に怒りを覚えていった。
私は善人面をして子供を傷つける大人に覚えがある。だから厩戸の状態がわかるから感情移入して心を痛めながら読んだのだ。
間人媛が毛人に話があると言い、「厩戸の事が怖い」と打ち明けるシーン。
そこで毛人が、厩戸が真に母から疎まれていた事を知り
「元凶はあなただ!」とはっきり言うシーン、あそこはとてもスッキリした。よくぞ言ってくれた、と思った。
厩戸の、一人苦しんできた苦悩が少し霧散してくれることを祈った。
様々な人間模様が、憎しみや嫉妬、尊敬、畏怖、軽蔑、恐怖、親子の愛、男女の愛、同性の愛、
諸々の念と共に織り成されるこの物語で、他にも心に強く残ったものは多々あったが、厩戸王子という主人公が形作られるにあたり、大きく、それは大きく関わった彼の母との悲しい関係が、私の心に大きく残っている。